30Jul
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17Jun
Posted by あちゃも/しおん in あちゃも
「俺の部屋へ案内しよう。」
そう言われて最上階の部屋まで連れられた。そこまでの道程には至るところに厳重なセキュリティがあり、兵助は勢いで乗り込んできた自分を恥じた。
部屋へ着くと、そこはマンションのような造りになっており、小さなキッチン、風呂、トイレ、寝室など、すべてが揃っていた。
生活に必要なものがすべて揃っているということは、ここから一歩も外へ出なくても生活出来ると言うことで、兵助は自分がここへ軟禁されるんだとぼんやりと考えた。
「疲れただろ。シャワーでも浴びるといい。風呂はあそこだ。タオルは引き出しに入ってる。」
そう言うと竹谷はネクタイを緩め、スーツのジャケットを脱いだ。
ふと気が緩んだ兵助はどっと疲れを感じた。体も汚れていたので、素直に風呂を借りることにした。
竹谷の名前は八左ヱ門と言った。「ボス」ではなく、二人きりのときは「八左ヱ門」と呼んで欲しいと。
兵助の後に八左ヱ門もシャワーを浴びて、二人で食事を取った。始終、八左ヱ門は上機嫌で、色々な話を兵助にしてくれた。
兵助はそんな八左ヱ門に毒気を抜かれつつも、警戒を完全に解いてはいなかった。
(変な奴・・・。命を狙っていた相手にまるで無防備だ・・・)
気を抜いてはいけないという考えが常に頭をよぎる。そのため、兵助は相づちは打つものの八左ヱ門の話しは頭に入ってこなかった。
※※※
「ほら、兵助こっちこいよ。」
「・・・は?」
「寝るんだろ?一緒に寝ようぜ。ほら!」
夜も更けてきて寝ようと言い出した八左ヱ門は、ベッドに横たわり、なぜか自分の横の布団をぽんぽんと叩いた。
さもここで添い寝をしろというように・・・
「意味が分からないんだけど。」
「だーかーら、一緒に寝ようって!」
八左ヱ門はバンバンともう一度布団を叩いた。自分を殺そうとした奴と一緒に寝ようだなんて何を考えているのか・・・
兵助にはまったく八左ヱ門という男が分からなかった。こいつは何がしたいのか・・・
「お前、少しは警戒したほうがいい。俺はお前を殺しにきたんだぞ。」
「え?でも俺を殺すのはまだ先の話しだろ?」
呆れ半分で言うと、八左ヱ門はきょとんとした顔でそういった。
「・・・確かに取引はしたが、俺がいつ間違いを起こすか分からないし、部下に一緒に寝てるところ見られたら怪しまれるんじゃないか?」
そう言うと、八左ヱ門はうーんと唸って考え出した。何をそんなに悩むことがあるのか。いい加減に馬鹿らしくなってきた兵助は一緒に寝ることを承諾した。
「ただし、手錠なり何なりで拘束してくれ。一応俺は捕虜みたいなものだし・・・」
少し渋ったが、八左ヱ門はどこからか手錠を持ってきて兵助の両手を拘束した。ひんやりと重い手錠がどこか兵助をほっとさせた。
自分がここにいる理由を主張してくれる気がした。
ベッドはキングサイズほどの大きさで、男二人で寝るにも十分な広さだった。
「手錠、はずしたくなったらいつでも言えよ。鍵はここにあるから」
「分かった。」
兵助がそう答えると、満足したのか八左ヱ門はふっと笑って目を瞑った。
兵助は自分の手にはめられている手錠を顔の前に掲げて眺めた。
(俺は、この男を殺すためにここにいる・・・)
自分の横ですでに寝息を立てている男を横目で眺めつつ、兵助はそう自分に言い聞かせた。
※※※
外から鳥の声がする。
遮光カーテンのため部屋は暗かったが、鳥の声で朝が来たことに気がついた。
まだ完全に覚醒していない頭で自分の置かれた状況を思い出した。
(・・・ん?)
ふと自分の体勢を確認してみると、後ろから誰かに抱きしめられていることに気づく。
「っ!!ちょっ・・・おい!お前!!」
兵助は完全に目が覚め、自分を抱きしめて寝ている八左ヱ門を乱暴に引き離した。
「・・・んー。あ・・・兵助、おはよう。」
まだ眠そうに目をこすりながら八左ヱ門は上半身を起こして笑った。
「・・・・お前、寝てるときに抱きついてくるなよ。」
「あれ?抱きついてた?人と寝るのって暖かくて気持ちいいなぁ。」
兵助がどんなに不機嫌でもまったく気にしてない八左ヱ門に、兵助はまたしても呆れて言葉が出なかった。
「・・・もういい。」
そういってベッドから降りようとしたとき、部屋の入り口からインターホンが鳴り響いた。
「あ、そうだ。今日は朝から雷蔵たちが打ち合わせにくるんだった。」
「俺は隠れてたほうがいいのか?」
「いや、あいつらは話しの分かる奴らだから、そのままいればいい。」
そういって八左ヱ門はベッドから降り、カッターシャツを羽織って寝室を出た。
兵助も寝巻きのままじゃ悪いと思ったが、手錠をしてることを思い出し、そのままの格好で八左ヱ門を追った。
「おい!はち、侵入者を引き取って調教してるらしいじゃないか!」
「大丈夫なの?もうちょっと用心した方がいいよ。」
黒いスーツに身をまとった人物が二人、入ってくるや否や八左ヱ門に突っかかってきた。
二人とも茶髪で、顔は・・・同じだった。
「・・・双子?」
ぼそっと兵助がつぶやくと、二人の視線が兵助を捕らえた。
「こいつか。はちの命を取りに来たやつってのは。」
「一応手錠はしてるんだね。へぇ、かわいい子じゃない。」
二人は物珍しそうに兵助を見た。どうしていいか分からなくなって八左ヱ門の後ろに隠れた。
「兵助、この二人は俺の部下だ。こっちが雷蔵、こっちが三郎。双子な訳じゃないんだ。三郎が雷蔵の顔を借りてるだけだ。」
「顔を・・・借りる?」
「俺の素顔を知っているやつは誰もいない。この顔は本当の顔じゃないってことだ。」
自慢げに三郎が言った。よく見れば、同じ顔でも、気の強そうなほうが三郎、優しそうな笑顔を浮かべているのが雷蔵だと分かった。
二人が同じ表情をすれば誰にも見分けはつかないのだろうけど。
「なんだ、結構はちに懐いてるじゃない。少し安心したよ。どんな奴をこの部屋に入れたんだろうって思ってたから。」
「・・・何なら、俺が調教してやってもいいけどな。」
「ダメだ!こいつのことは俺に任せておけって。それより、打ち合わせは?」
「ああ、そうだった。三郎、資料出して。」
「兵助、ちょっと席はずしてくれ。」
すまなそうに八左ヱ門に言われ、兵助は素直に寝室へ戻った。打ち合わせに興味は無いし、何よりこの三人といると余計に調子が狂ってしまうと思ったからだ。
(マフィアってもっと堅苦しい奴らばっかりだと思ってたのに・・・)
昨日から拍子抜けなことばかり起こって訳が分からない。ベッドに座って思考をめぐらせていると、いつのまに時間が経ったのか、打ち合わせが終わったようだった。
コンコンと寝室の扉がノックされる。はい、と返事をすると、入ってきたのは三郎だった。
「・・・お前、何を考えてるんだ?」
三郎は険しい顔で兵助を睨み付けた。返す言葉が見つからずたじろぐ兵助に近づき、耳元で囁いた。
「あいつに何かしてみろ。俺がお前を殺してやるからな。」
そう言って三郎は寝室を出た。
しんと静まる寝室。外のリビングが嫌に騒がしく思えた。どうやら三郎たちはもう帰るらしい。
何分そこに立ち尽くしていたのだろうか。三郎たちを見送った八左ヱ門が寝室へ戻ってきた。
「兵助、どうした?」
様子がおかしい兵助を心配して八左ヱ門が寄ってきた。
三郎に言われて兵助は改めて自分の置かれた状況を理解した。
自分は八左ヱ門を殺そうとやってきた侵入者なのだと。
八左ヱ門の部下は自分のことを敵だと思っていることを。
八左ヱ門を殺すためには部下達を信頼させないといけないことを。
そのために自分がしなくてはいけないことは・・・
「・・・ボス。」
低い声でつぶやけば、八左ヱ門は動きを止めて兵助を見た。
兵助はゆっくりと顔を上げて八左ヱ門の目を見つめた。
「私は、何をすればいいですか?」
お前を殺すために。
二人の取引は、今始まったばかり・・・